九場



(善右衛門の羽織を着て歩くフユの後ろ姿にハルが声をかける)

ハル 「あ、落としましたよ〜あら、要のところが外れてしまってます。
     上等な扇子みたいだけど、肝心の要がなけりゃ使いものになりませんね。」

(フユは立ち止まり、背中でハルの様子を伺っている)


(ハル) ♪肝心要の裏方さんよ〜 (扇子をみつめ)
「うちの母が、アンコを作る時に歌うんです。それも必ず、塩を入れる時に歌い始める。」

♪いっと・にっと・さんっと・ご いっと・にっと・さんっと・ご
「さんの次がごだなんてねぇ。この歌、もしかしてアンコ作る時の分量のこと?」

♪肝心要の裏方さんよ〜 ちょろりちょろりと 折り合いつけりゃ
 えぇ塩梅で日が暮れて えぇ塩梅で夜が明ける
「ワタシ、母から教わる事がまだ沢山ありそうです。」

(フユ立ち去る)



(心配してやって来たキヨに、ハルがナツを手離す話をし始める)

♪ハルの歌
   乳も出ないくせに母親の真似事やって、とんだお笑い草
   自分の母親一人かばってやれないなんて・・
   こんな私に子供育てられる?
      おっかさんがいなけりゃ、この店もおしまい
      何もかもみんなに迷惑かけるばかりで、自分が情けないよ・・・

キヨ 「みんなに迷惑だなんて・・
    亭主が亡くなってからおハルちゃんはずっと頑張って来たじゃないか!
    そーやって一人で抱え込むのは悪いクセだよ!落ち着いて話をしようじゃないか」


 



(越後屋がカゴの中にいるのが父親だと知らず、話しかける)

越後屋 「婆さんのアンコを使って、必ず儲かる商売を思いついたんですよ!
      悪いようにはしません! アンコ作る際の分量をちょいと教えてもらえませんか?
      団子屋の将来の為ですよ!ホラ、ここに書いてください。

(紙と筆をカゴの中に入れる)
(カゴの中から丸められた紙が出て来る)

越後屋 「なになにぃ? 『ええ加減・・にせぇ』ええ加減って!
      その加減が分からんから分量を訊いてるんでしょう!?
       ったく、えー加減な婆さんだ! 」    (紙を丸めてカゴに投げつける)